牛皮のカバン【年末の贈り物】

鞄へのいざない
永い眠りから醒めるとスマホのレンズが僕をモデルの如くに撮り始めた。正面、横顔はもとよりお腹の中まで。
老職人さんの手により、丁寧に縫い合わされ磨かれ、魂を入れられ、工場の棚に置かれた時、僕は他の何物よりも輝いていた。数日後、包まれて箱へ入れられ、他の仲間と一緒に車に
数時間揺られながら、百貨店の特設会場へ到着した。陳列棚へ並べられ、行き交う人々の目に止まっていった。仲間は新しい主人に迎えられ次々と棚から降ろされたが、僕ら大きめの製品は残りはじめた。展示販売会の期限が明日に迫ったその日の午後、一人の客が僕を色々な角度から眺め、品定めをしていたが、次の瞬間、値札も見ずに「これ下さい」と。
支払いの時彼は驚いた顔をしていた。僕は、箱に納まり彼と一緒に電車に乗った。網棚に置かれ心地よい揺れとレールの音に酔いしれた。彼の家に着いたとたん、家族に、電車賃しか残らなかったよ。と。僕の新しい主人は、包みから僕を解き放ち自分の書斎の机の上へ置き暫らく眺めていた。直ぐ使うでもなくそのまま数日がたった。ある日家の中が慌ただしくなって、僕は忘れられた。その後再び僕は箱の中へ収まり、クローゼットの中へ置かれた。新しい働き場所が待っていたはずだが、何かの都合で其れが消えた。万事塞翁が馬なのか！。いや僕は馬ではなく牛だ。職人さんの手によって丁寧に造られた牛革のハ━ドなカバンだ。働き場所を探すにも手だてが無い。永い永い時間が経ち、眠りから覚めると、辺りは一変していた。僕は突然とスマホのモデルになって、新しい主人を探す事になった。メルカリへの出品である。僕は経年劣化も無く、輝いている。もし、縁があって新しい主人に巡り会うことが出来たら、持てる力を十二分に発揮出来ると確信している。Ａ４サイズまでもってこいだ。厚めの本も数冊は入る。筆記具もスマホもOK。重さは約1.1kg。早く見つけてくれればいいなァ━。
僕の小さな物語、最後までおつきあい下さって頂き感謝致します。宜しくお願い申し上げます。

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